模写のすゝめ〈前編〉運筆を体に覚えるために

2025.11.28
模写のすゝめ〈前編〉運筆を体に覚えるために

運筆(うんぴつ)を感じる練習

今回は筆の使い方、とくに運筆についてお話ししたいと思います。
「運筆」という言葉は書道でよく使われますが、実は絵画においてもとても大切な要素です。
一本の線の勢いや筆圧、速度の緩急、それらは絵の印象を左右する呼吸のようなもの。鉛筆やコンテでも同じことが言えますが、今回は筆に焦点をあててお話ししたいと思います。

線は心を映す

線というのは不思議なもので、描く人の心の状態がそのまま表れます。
迷いのある線、思い切りのある線。その違いにより力強い絵になったり、優しい絵になったり、あるいは絵の印象を壊してしまったりします。

線の流れを理解し、一本一本に集中して描くことで、線は生き生きとした表情を持ち始めます。そのために効果的なのが模写です。

私が学生の頃、運筆を鍛えるために取り組んだのが鳥獣戯画の模写でした。
原画の流れるような筆さばきは何度見ても感動します。繰り返し模写をしていると、頭の中で思い描いた線が紙の上にそのまま出てくる感覚が育っていくのです。

線の「三拍子」

筆で線を描くとき、基本となるのがこの三つの動きです。
それぞれの間や重さを意識することで、線の質が驚くほど変わります。

  1. 起筆(きひつ):筆を紙に置く瞬間。ためらわず、静かに筆を沈めるように。線の始まりに気持ちを込めます。
  2. 送筆(そうひつ):筆を動かす部分。力を入れすぎず、筆の含みを感じながら送るように運びます。呼吸を止めずに、肩から流すように。
  3. 収筆(しゅうひつ):線の終わり。スッと筆を立てて抜く、あるいは止めて溜め(所謂インク溜まり)を作る。ここで線が決まります。

この三拍子の流れを身体で覚えると、一本の線に自然なリズムが生まれます。
まるで音楽を奏でるように、筆の動きを感じられるようになります。

模写で運筆を体に覚えさせる

模写の練習には、先にも言いました鳥獣戯画がとてもおすすめです。線のリズム、力の抜き方、そして何より「描く喜び」がたっぷり詰まっています。

用意するものは、滲み止めした薄い和紙(薄美濃紙など)、なければトレーシングペーパーでも充分。あとは細い筆(面相筆など)、墨、固定するマスキングテープなど。

透かして写す練習で、線の流れを体に刻みます。目的は筆の運びを感じることです。
線の太さや濃淡を慎重に観察しながら、「起筆」「送筆」「収筆」を意識して一筆一筆ていねいに描いてみてください。

最初は根気がいりますが、一枚仕上げたときの達成感は大きく、確かな上達を実感できるでしょう。

→ 後編では、練習の進め方や継続のコツをご紹介します。

画家 櫻井ナン

画家 櫻井ナン

横浜生まれ。都内在住。
武蔵野美術大学造形学部油絵学科(通信課程/奨学金奨励生)卒業。同大学卒業制作優秀作品に選出。
専門学校桑沢デザイン研究所グラフィックデザイン研究科卒業。
桑沢デザイン研究所研究科在学中から演劇実験室天井桟敷で舞台美術及び美粧アシスタント・宣伝美術担当。
主幹寺山修司氏死去で劇団解散後、グラフィックデザインを主にフリーランスに。

近年の活動

クラゲジルシN-plusサイトにて日本初の絵文字フォント制作、販売及びフィギュア制作
守山乳業デザート・ドリンク等パッケージデザイン
ジャストプランニングwebページ・商品ロゴデザイン
NECパソコンのいろは(PCソフト)チュートリアル キャラクターデザイン
PUZZLING Ghost Treat (iPhone/android)パズルアプリ キャラクター・GUIデザイン
ダイハツ子供向け販促物、自動車ぬりえ等
Panasonic北京五輪 展示パネル各種目イメージイラスト
オノグラフィックス(知育カードゲーム)「のりものえあわせカード」著作

近年の画歴

テンペラ(混合)画で第90回・91回・92回春陽展に入選。
テラコッタ彫刻で第78回・79回新制作展入選。
テラコッタレリーフでサムホール大賞展入選。
六本木画廊企画展「幻想動物園」・「SCULPTORS×POWERS」彫刻出品