今回は筆の使い方、とくに運筆についてお話ししたいと思います。
「運筆」という言葉は書道でよく使われますが、実は絵画においてもとても大切な要素です。
一本の線の勢いや筆圧、速度の緩急、それらは絵の印象を左右する呼吸のようなもの。鉛筆やコンテでも同じことが言えますが、今回は筆に焦点をあててお話ししたいと思います。
線というのは不思議なもので、描く人の心の状態がそのまま表れます。
迷いのある線、思い切りのある線。その違いにより力強い絵になったり、優しい絵になったり、あるいは絵の印象を壊してしまったりします。
線の流れを理解し、一本一本に集中して描くことで、線は生き生きとした表情を持ち始めます。そのために効果的なのが模写です。
私が学生の頃、運筆を鍛えるために取り組んだのが鳥獣戯画の模写でした。
原画の流れるような筆さばきは何度見ても感動します。繰り返し模写をしていると、頭の中で思い描いた線が紙の上にそのまま出てくる感覚が育っていくのです。
筆で線を描くとき、基本となるのがこの三つの動きです。
それぞれの間や重さを意識することで、線の質が驚くほど変わります。
この三拍子の流れを身体で覚えると、一本の線に自然なリズムが生まれます。
まるで音楽を奏でるように、筆の動きを感じられるようになります。
模写の練習には、先にも言いました鳥獣戯画がとてもおすすめです。線のリズム、力の抜き方、そして何より「描く喜び」がたっぷり詰まっています。
用意するものは、滲み止めした薄い和紙(薄美濃紙など)、なければトレーシングペーパーでも充分。あとは細い筆(面相筆など)、墨、固定するマスキングテープなど。
透かして写す練習で、線の流れを体に刻みます。目的は筆の運びを感じることです。
線の太さや濃淡を慎重に観察しながら、「起筆」「送筆」「収筆」を意識して一筆一筆ていねいに描いてみてください。
最初は根気がいりますが、一枚仕上げたときの達成感は大きく、確かな上達を実感できるでしょう。

→ 後編では、練習の進め方や継続のコツをご紹介します。