皆さん作品制作にあたり、失敗を恐れる余り慎重に丁寧にキレイに描こうとしてませんか?
今回は水彩の特性を例とした作品を「汚す」事、それに付随して「作品を壊す」という事について書いてみたいと思います。
皆さんは生活の中で様々な滲み汚れを見てきていると思います。
フライパンの底の焦げ汚れ、コーヒーをこぼしたカーペットの滲み、外を歩けばコンクリートの劣化で出来た滲みや、歩道のすみの雨水だまりで出来た汚れなど数えきれない汚れを普段はスルーしている事でしょう。そこに目を向けて欲しいのです。ひとつの滲み汚れの濃淡やディテールの面白さに気づく目を持てたら、絵画の世界がもっと広がると思います。
特にキレイな作品に拘りがある方は、是非一度「汚れ」の面白さを体験してみて欲しいと思います。淀みのない作品に筆を叩きつけてみる試みをして欲しいです。新しい気付きが生まれる瞬間です。
キレイな作品を壊すには勇気が要りますが、行き詰まってどう進んだら分からなくなった時にも光明が差す事があります。
昔、私が初めての大作、等身彫刻を造った時に完成間近、粘土が乾いた段階で崩落し、見事にバラバラになってしまった事があります。その時ショックを受けてメチャメチャ凹んでる私に、尊敬する彫刻家の先生が言いました。「良かったじゃない」
え?壊れてバラバラなのに!と思っていたのですが、諦めずに泣きながらバラバラに焼き上がった破片を修復し補強し、何とか完成させた時に「良かった」の意味がわかりました。壊れる前のキレイな作品より格段に良いものが出来たのです。その先生から「作品は壊しては修復する度に良いものになる」と言われました。
それ以来、煮詰まるとちょっと荒らしてみる事にしています。水彩では難しいですが、しっくり来ない油彩画をヤスリで削って傷だらけにしてみたら、とりあえず修復しようと手が動くようになり、ひとつ壁を乗り越えた感覚がありました。
話が水彩から離れてしまいましたが、汚れの美しさ面白さは技法を問わず奥深いものです。身の回りの偶然出来た染みや汚れを、一度じっくり観察してみると楽しくなってきますよ。